健気な男

「ホラ、次が右だよ」
「右だな・・・」
「その後、左に折れて、三本目の筋を右に行って・・・」
「なに??・・・ちょっと待て。右で・・えっ?」

絳攸は本当に地理センスが無い。
はっきり言って壊滅的だと思う。
そのくせ虚栄心はバリバリに激しくて、プライドはそれこそ彩八山(きっとある筈)なみに高い。
だから、珍しく紅尚書邸の道筋を楸瑛の所にわざわざ習いに来た絳攸に驚きを隠せない。
最も、軒で行けば良い所を、わざわざ徒歩で行こうとするその冒険心は買わない訳ではないけれど、はっきり言ってかなり不安だ。
そもそも、自宅とも実家とも取れる場所を他人に習うとはどうかと思うが。


けれど。

『どうしても覚えたい・・』と、健気にも紅尚書に褒めてもらいたい一心の絳攸の想いを無下には出来ない。

教える事はかなり大変なんだけどねぇ〜〜。

そう思いながらも愛しい人からの頼みごと断る筈も無く。
一緒に紅尚書邸への道を説明する事3回。
解らない・・と訴える絳攸に、更に付き添って紅尚書邸まで往復する事5回。

しかし。

いくら教えても一人ではどうしても紅尚書邸に辿り着けない絳攸に、楸瑛は段々疲労が困憊してきた。

「違うよ絳攸、何度言ったら解るんだい。この道はこっち。次はこっちだよ・・・」

はあ〜。いい加減疲れた・・。

いくら愛しい人の手助けとは言え、こんなに何度も同じ事の繰り返しではコチラが先に根をあげてしまう。だから、つい、楸瑛は尊大な愚痴を漏らしてしまった。

「絳攸・・・。やっぱり、軒で行った方が良いと思うよ・・・」
「な、何だと!! オレには覚えられないとでも言いたいのか?」
「そう言うけどね、君に教えたの何回目だと思っているんだい」
「―――――っ!! お前の教え方が悪いんだっ」

初めは和気あいあいと始まったレクチャーだったのに、気が付けば絳攸は真っ赤な表情をしていた。
「自分の教え方が悪い事を棚にあげて、オレが馬鹿だと思っているのか?」
凄む絳攸は可愛いなあ〜とか違う事に感心する。
「そんな事は思っていないよ。ただね、人には誰しも向き不向きがね・・・」
何とかその怒りを取り下げようとしたのだが。

「――――!!」

地雷を踏んだらしい。

「も、もういい!!お前には習わんっ!!誰か別の人に頼む。誰がお前なんぞに金輪際頼むものかっ。帰る!」
楸瑛の腕を振り払い、絳攸はプリプリと怒鳴りながら背中を向けて歩きだした。
「ちょ・・・絳攸!」
「知らん!」

あらら・・・。

言い出したら聞かない絳攸が、帰ると言い張ったら本当に帰るのだろうけど。
本当に短気で困る。

しかも、その道は既に違うんだけどね・・・。

「絳攸、何処に行く気だい。そっちの道は君の家の方向ではないよ」
どんどん遠ざかる背中に声をかける。
「―――――!! ちょっと、違う道を行ってみたかっただけだっ!」
楸瑛に近付いて、横を通り過ぎた絳攸に苦笑する。

まったく素直じゃないね・・。
そこも魅力の一つなのだけど。
仕方がない。
ココは私が大人になろう。

「絳攸、ごめんよ。今度はちゃんと、君にも解る様に優しく教えてやるから・・・待ってくれないかい?」
楸瑛はペコリと頭を垂れて謝罪した。


すると。

「今、『教えてや・る・か・ら・・・』と言ったのか?」

怒りでこめかみに青筋を立てた綺麗な顔が楸瑛を振り返った。

「・・・え〜と・・。頼むから教えさせてもらえないかな・・・」

恐る恐る言葉にすると、絳攸はくるりと踵を返して再び楸瑛へと近づく。
「・・・・仕方ない。そこまで言うなら教わってやる」
「・・・・・・」
尊大な態度に流石の楸瑛も沸々と怒りが沸きそうになったのだが、グッと我慢する。
「だから、今度はきちんと説明しろよ」

あのね〜〜〜。

楸瑛は苦虫を噛んだ。

それでも楸瑛は「悪かったね」と謝罪をし、絳攸の肩にそっと手を回すと、再び共に歩くのだった。





恋する男は健気である。


蒼乃さんから頂きましたv
タイトルどおり楸瑛が健気で〜v 無意識に甘えまくっている絳攸も可愛いです!!
蒼乃さん、ありがとうございました!

・・・・・・ところでこれは、デートでしょうか? デートですよね♪